アベルの「弟」は、「カイン」
カインの「兄」は、「アベル」
――― そう決まっている。ずっと前から。そう、決まっている…。
アベル
「あの人は、「カイン」でも「アベル」でも、どっちでもいいんだ…。どっちでも嫌いなんだよ、あの人は。
何故なら、カイン。”君”自身を嫌っているのだから……」
「全ては仕組まれたこと。僕らはただ、その時を待てばいいのさ。…壊れる時をね。
それまでは、ずっと何も知らない振りをして、踊り続ければいいだけ……そうだろう? カイン」
「僕らは、みんな愚かだ…」
「欲しい物が手に入らない……この気持ち、お前なら分かるだろう?」
「本当は殺したかったのかもしれない…
本当は、殺されたかったのかもしれない……
どちらにせよ、僕は後悔はしてないよ。これでいい。これで…満足だ」
「最後にお前と話さなくてはいけないと思ってね……なのに、もう、時間がないなんて……」
「これで、お前は僕の過ちだ………二度と離さない」
「ようやく蒔いた種が目を出したらしい。この賭けは、僕の勝ちだ。
実をつけるまで……もう少し待ってみようかな……?」
「光と影は表裏一体。いつも一緒だ。決して離れることも、消してしまうことも、できない……。それが僕たちだ」
「憎しみあって、憐れみあって、気にしてる・・・。
僕らは互いを見ていた。それは見張っていたと言えるかもしれない。
互いを意識して感じるコンプレックスを、どうしようもないほど持て余して・・・愛していたのかもしれない。いつしか。
僕らは鏡のような存在なのかもしれないね。そこに自分の完璧な姿を見出そうとして。
欲しいものがないか探している・・・。
本当は、二人がいることが不自然なのかもしれないんだ・・・」
「混ざり合えないなら、どちらか一人を”消して”、一人が二人を演じればいい。
己の中に残る、もう一人を必死になって演じれば・・・。
自分とそれを打ち消しあって、壊れていくんだ。そうだ、それがいい!
それこそが幸せに違いない・・・!
夢に見そうなほど素晴らしい・・・」
「この夢はいつまで続くのかな? 幸せすぎて怖いよ」
「相変わらず間違ったことが嫌いなんだね。君の亡霊を見るのは随分久しぶりになる・・・」
「一人で閉ざしていたんだね・・・かわいそうに。
これからは僕が一緒にいてあげるよ。側でずっと抱きしめててあげよう・・・」
「もう泣かないで。お前のやったことを、僕は責めない。
他の誰が責めても、死んだ、この僕が許すよ・・・だから、怖がることは何もないよ・・・」
「安心して。ほら、顔をあげて。あちらに光が見えるだろう・・・?
あれがあの日の朝日だよ。
今行けば間に合う。すべてを無かったことにできるよ。さあ、行って。
そして、また穏やかな日々をやり直そう。
おかしな方向に捻じ曲がってしまう前に戻るんだ。
お前が落ち着くまで・・・”あの日”は何度でも繰り返す。永遠に。穏やかな一日だよ・・・。
お前が忘れたいと思うのなら、それもいい。
なかったことにしよう。二人で、あの幸せな夢に溺れよう。
互いのこと以外、忘れて・・・」
目覚めないで。
眠っていて。
そこは永遠の楽園だから・・・。
深く夢見て、その間だけは守られる。
僕らは二人きりの兄弟なのだから。
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