◆◆◆ 『  楽園 の 主  』 ◆◆ 02  偽りの楽園。嘘の創造主。朽ちた時間は戻らない。でも、過去に逃げることは許されない。ならば騙そう。自らを…。

 

 

 アベルの「弟」は、「カイン」
 カインの「兄」は、「アベル」
 ――― そう決まっている。ずっと前から。そう、決まっている…。


「あの人は、「カイン」でも「アベル」でも、どっちでもいいんだ…。どっちでも嫌いなんだよ、あの人は。
 何故なら、カイン。”君”自身を嫌っているのだから……」

「全ては仕組まれたこと。僕らはただ、その時を待てばいいのさ。…壊れる時をね。
 それまでは、ずっと何も知らない振りをして、踊り続ければいいだけ……そうだろう? カイン」

「僕らは、みんな愚かだ…」

「欲しい物が手に入らない……この気持ち、お前なら分かるだろう?」

「本当は殺したかったのかもしれない…
 本当は、殺されたかったのかもしれない……
 どちらにせよ、僕は後悔はしてないよ。これでいい。これで…満足だ」

「最後にお前と話さなくてはいけないと思ってね……なのに、もう、時間がないなんて……」

「これで、お前は僕の過ちだ………二度と離さない」

「ようやく蒔いた種が目を出したらしい。この賭けは、僕の勝ちだ。
 実をつけるまで……もう少し待ってみようかな……?」

「光と影は表裏一体。いつも一緒だ。決して離れることも、消してしまうことも、できない……。それが僕たちだ」



「憎しみあって、憐れみあって、気にしてる・・・。
 僕らは互いを見ていた。それは見張っていたと言えるかもしれない。
 互いを意識して感じるコンプレックスを、どうしようもないほど持て余して・・・愛していたのかもしれない。いつしか。
 僕らは鏡のような存在なのかもしれないね。そこに自分の完璧な姿を見出そうとして。
 欲しいものがないか探している・・・。
 本当は、二人がいることが不自然なのかもしれないんだ・・・」

「混ざり合えないなら、どちらか一人を”消して”、一人が二人を演じればいい。
 己の中に残る、もう一人を必死になって演じれば・・・。
 自分とそれを打ち消しあって、壊れていくんだ。そうだ、それがいい!
 それこそが幸せに違いない・・・!
 夢に見そうなほど素晴らしい・・・」

「この夢はいつまで続くのかな? 幸せすぎて怖いよ」

「相変わらず間違ったことが嫌いなんだね。君の亡霊を見るのは随分久しぶりになる・・・」

「一人で閉ざしていたんだね・・・かわいそうに。
 これからは僕が一緒にいてあげるよ。側でずっと抱きしめててあげよう・・・」

「もう泣かないで。お前のやったことを、僕は責めない。
 他の誰が責めても、死んだ、この僕が許すよ・・・だから、怖がることは何もないよ・・・」

「安心して。ほら、顔をあげて。あちらに光が見えるだろう・・・?
 あれがあの日の朝日だよ。
 今行けば間に合う。すべてを無かったことにできるよ。さあ、行って。
 そして、また穏やかな日々をやり直そう。
 おかしな方向に捻じ曲がってしまう前に戻るんだ。
 お前が落ち着くまで・・・”あの日”は何度でも繰り返す。永遠に。穏やかな一日だよ・・・。
 お前が忘れたいと思うのなら、それもいい。
 なかったことにしよう。二人で、あの幸せな夢に溺れよう。
 互いのこと以外、忘れて・・・」


 目覚めないで。
 眠っていて。
 そこは永遠の楽園だから・・・。
 深く夢見て、その間だけは守られる。
 僕らは二人きりの兄弟なのだから。


 
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