☆☆☆ 小王子 リユ 番外編02


 リユの過去 〜ある日の午後〜シリーズ?
 その2 ピクチャー

「あれ? 何見てるの?」
 珍しく里帰りして来たシュンガーは、熱心に何かを見ていた。
「ああ、昔のアルバムをね・・・」
 懐かしげに目を細めて、兄は顔も上げずに言った。
「ふぅ〜ん・・・。アルバムねぇ・・・」
「あ、ほら、リユ。お前、これ覚えてるか?」
「え? どれ、どれ?」
「これだよ、これ」
 そこには。
 少年のシュンガーと、幼児リユが仲良く笑顔で写っている。それはいい、それは・・・。
 しかし。
「ねえ、なんで僕、父上の王冠かぶってるの!?」
 王位継承者のみが、かぶることの許された、先祖代々の国宝を・・・!!
「しかも、なんで兄さんが、母上のティアラをつけてるわけ!?」
 それも、嬉しそうに・・・。
「ああ、それ? だって、お前が、これかぶるーって言ったんだぞ?」
 シュンガーは、あっからかんと軽く言い放った。
 やっぱり、とても嬉しそうに・・・。
「ええ? 嘘だぁ・・・」
「お前が、父上の王冠かぶるーって、これかぶらなきゃ、写真なんかに写らないーって言ったんだぞ?」
「え・・・そうだっけぇ・・・? 信じられないな・・・」
 はっきり言って全く覚えてない。カケラも記憶にないのだ。
「もお〜〜〜。忘れたのかぁ?」
 いくら幼児だったからといって、こんなインパクトのある事なんか、そう簡単には忘れないと思う。
「え、ええとぉ・・・」
「あの時、お前。俺が止めても、これじゃなきゃヤダッ!って、凄かったのに・・・」
「・・・」
 信じられないが、シュンガーは、それは楽しそうに思い出しては語る。
「・・・う〜〜〜〜ん?」
 リユが本格的に考え始めた時、レオンがやってきた。
「王子ぃ〜、お勉強の時間ですよ〜〜」
「あ、レオン」
「おや、シュンガー様。奇遇ですね。・・・ところで、こんな所で何やってんです?」
 レオンはひょいと、アルバムを覗き見た。
「ああ! これは、懐かしい!!」
「えっ?」
「お、レオンも覚えているか?」
「ええ、、もちろんですよ。特にこれなんか私が撮ったんですよ」
「そうだった、そうだった」
「えっ、えっ?」
「あの時は良かったなぁ・・・」
「ええ・・・。本当に・・・」
 何か二人して浸り出す。
「えっ、えっ、何なに、何なんだよ〜??」
 リユはひとり置いてけぼりになってしまった。

 

 二人のいう、『あの時』に遡る・・・。

 

「よーし、じゃあ、これかぶって兄さんと写ろう!!」
 ぽすっ、と王冠をリユの小さな頭に乗せて、少年シュンガーはにっこり笑った。
「うんっ!!」
 リユは、なんだか嬉しくて元気良く手を上げた。
「いい子だな〜〜、リユは」
「うんっ!!」
 二人仲良く並んで立つ。
「は〜い、それじゃ、いいですか〜? 撮りますよ〜? はい、チーズ!!」
 パシャッ!!
 ・・・という訳なのである。現実は、所詮そういうもんである。
 シュンガーは、王になりたくないが故に、何も知らないリユに押し付けようとした。
 そして、それは見事に成功した。彼は現在、隣国に婿養子として、嫁いで行った(?)のだから。

 

 その後。レオンがカメラを戻しに行ってる間に、それは起こった。


 リユは重さに耐えきれず、ふらふらしてるかと思えば、顎から地面に激突したのであった・・・。
「あ、大丈夫か、リユっ!?」
「うんっ!!」
 いい子と褒められたリユは、とっても嬉しかったので、痛みよりも、いい子の方を取った。
 ちょっぴり痩せ我慢して、元気いっぱいに答えてた。
「ふ〜〜〜〜、良かったぁ・・・」
 と、そこでリユはどうしたことか、いきなり手足をばたつかせ始めた。
「う〜〜」
 とか、言って。
「あ・・・はは・・・」
 思わず、それを見てしまったシュンガー、危うし。
「あは、はは・・・」
 例の発作が起こりそうだ・・・。
「う〜〜」
 じたばた、じたばた、じたばた、じたばた・・・・・・。
「あはは!! あはははは!!」
「う?」
「あはははははっ!!」
「う〜〜っ!!」
「あは、はは、っく。だ、大丈夫か・・・リユ・・・?」
 兄の意地で、頑張って安否を確かめる。
「うんっ!!」
 しかし、それに返ってくるのは、当てにならないリユのいい子な返事だけであった・・・。
「く・・・くくっ!! も、もう、駄目だ・・・!!」
 そして、シュンガーは例によって例のごとく、笑いの渦に引き込まれていったのであった・・・。
 そして、リユは結局レオンが戻ってくるまで救出されることはなく、いつまでもばたついていたのだった。
 ・・・もちろん、その場にいたシュンガーも、笑いからの開放はその時であった。

「・・・ふっ。あの頃は、俺も未熟だったからな・・・」

 シュンガーは、ふと呟いた。
「え、何が?」
「いや。・・・お前なんか今よりもっと凄かったしな・・・」
「・・・兄さん?」
 一人遠い目をして、また自分の世界に旅立って行きそうになっているシュンガー。
 そこに、うんうんと頷いていたレオンが、我に返ったように言った。
「あ、ヤバイ!! 早く勉強させなくては・・・!!
 こんな事がばれたら、今度は減俸だけじゃ済まないかも・・・!!」
 兄を窺がっていたリユを後ろから押して、
「さあ、王子。勉強しに行きますよっ!!」
「え、おい、ちょっと、こら・・・!?」
 そのまま強制連行していった。
「いってらっしゃ〜い。しっかり勉強してこいよ〜〜」
 兄は呑気に見送りの手を振るばかりだった。




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